- 20世紀の後半、科学の世界に大きな変貌の兆しがいくつか現れた。
- その一つがナノレベルでの“物の世界の原理”を読く量子論と“事の世界の原理”を説く情報理論の融合である量子情報である。2つの世界を揚棄的に融合する量子情報の世界では、情報の表現と価値に関する新たな数理が問題となり、その下で圧倒的な速さで計算を行うアルゴリズムとコンピュータ、究極的な安全性を有する量子テレポーテーションなどの実現に向かうことになる。
- また、生命の源が4つの元の“並び”にあるとするゲノムの原理は2元ガロア体世界に経遊し成功を収めてきた情報科学に新たな問題を投げかけ、その中から“生命情報”というまだ形のない分野が生まれてきた。ゲノムに含まれる情報は圧倒的な多様さ(4の30億乗個)を持つものであり、この情報の解析にはどんな並列コンピュータでもお手上げになるほどで、この途方もなく長い塩基配列の中に生命の情報がどのように刻み込まれ、そこから生命がどのように発現・変化しているかを情報科学の数理を駆使して解き明かそうとするのが生命情報科学の主たる任務である。こうした状況の下、“物”と“事”の揚棄を目指す量子情報と通常の情報科学では処理しきれない生命現象の理解には深いつながりがあると我々は考えている。
- 量子情報の数理が生命理解に如何に役立つか、生命における情報処理の多様さが量子情報の更なる豊穣に如何に寄与するか、我々の研究センターQBICのレーゾン・デートルはこうした研究を世界で初めて試みるところにある。
- センター長 大矢雅則